一度開いたドアは閉まらない、薬物依存とアーティストの苦悩

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昨日の記事で熱く語ったスティーブンタイラー。記事内でも「元薬物依存症患者である」とサラッと触れましたが、今日はこの薬物依存を掘り下げていってみようと思います。少し長くなるかもしれません。

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また、本来なら記事のはじめに「薬物依存とは何か」「問題点は何か」などを説明するべきなのだろうと思いますが、弊記事では敢えてしません。この記事を読んで、各々が薬物とどう向き合っていくべきなのかを考えてもらえたら嬉しいなと思います。

 

エアロスミスと薬物 

 スティーブンタイラーのバンド、エアロスミスはメンバー全員がアルコールやドラッグのアディクション(依存症)に悩まされていました。70年代の出来事で、あの有名なアルマゲドンの曲が出来る、ずっと昔のことです。エアロスミスのベーシストであるトムハミルトンは、当時のことをインタビューでこう答えています。

みんなパーティをして楽しむのが大好きなのは当然だけど、しばらくそういうことを続けていると、馬鹿騒ぎしたいときばかりじゃなく、たとえば朝、ベッドから起き上がるためにドラッグに手を出すようになっていたりすることがある。習慣というか悪癖というか。それが僕たちにとっての、成功の不幸な副産物だった。突然大金が転がり込んできて、メンバーたちも毎日のようには会わなくなり、数ヵ月もの間、お互いに口をきくこともなくなってくる。すると、そういうものに手を出してしまいがちになる。それがまさに、あの頃だった。

【異次元連載】トム・ハミルトンが語るエアロスミスの真実 Vol.16「バンドのスタイルが確立された『ロックス』と、絶頂期でありながら地獄への入口にもなった『ドロー・ザ・ライン』」 | BARKS

エアロスミスは依存症の治療プログラムを行い、薬物を克服しました。メンバーの入れ替わりがありながらもオリジナルメンバーで再び活動を始め、ロックバンドとして不動の地位を築くことになるのです。

しかし、ボーカルのスティーブンタイラーは2006年にステージからの転落事故に遭い、薬物依存をスリップ(再発)させていました

薬はベッドの脇に置いてあって、俺はいつも処方より多く飲んでたんだよ。思い出してほしいんだけど、俺はもう何年もの間ジャンキーをやってきたから、薬物中毒にはすごくかかりやすいんだよ

エアロスミスのスティーヴン・タイラー、転落事故から薬物中毒になった経緯を語る (2013/09/12) 洋楽ニュース|音楽情報サイトrockinon.com(ロッキング・オン ドットコム)

タイラーがスリップした理由

治療プログラムに取り組みながらもスリップしてしまったタイラーは、再び依存症に陥っていった経緯をこう語っています。

今時の新手の売人って知ってる? 医者なんだってば。医者に看てもらって俺も一応断るわけだよね、『今12ステップ・プログラム(依存症治療のプログラムのひとつ)を受けてるところなんだけど』ってさ。すると『それは結構なことですねえ』と医者は言うんだよ

ところが帰ろうとすると、こう声をかけてくるんだよ、『よく眠れるものなんか用意しましょうか?』ってね。それでね、自分は気分が変わるようなものは飲んじゃいけないんだと、それに乗っかっちゃうのが俺は大好きだからだって言おうとしたんだよ

けどさ、もう思い出しただけで気持ちよくなってきちゃうんだよね。それほど珍しいことじゃないと思うよ。人間なんだからね

エアロスミスのスティーヴン・タイラー、転落事故から薬物中毒になった経緯を語る (2013/09/12) 洋楽ニュース|音楽情報サイトrockinon.com(ロッキング・オン ドットコム)

強烈な快楽を覚えた脳は、何度でもその感覚をフラッシュバック(追体験)させます。その都度抗うことには苦痛が伴うため、耐えられず、快楽を求めてスリップしてしまう人が多いのも事実です。一度開けてしまったドアは、開いたままなんですね。

 

偉人と薬物

エアロスミスだけではありません。歴史に名を刻んだ有名なミュージシャンやアーティスト、その他たくさんの著名人は薬物を使用し、そしてそれを一生懸命隠そうと躍起になることもありませんでした。時代もあるのでしょうが、日本とは根本的に価値観が違うのでしょうね。

薬物で亡くなった有名ミュージシャンたち

FOREVER27CLUBと呼ばれる孤高の若きミュージシャン

27クラブと一括りに呼ばれるほど、27歳で死亡した偉大なミュージシャンやアーティストたちが多いことをご存知ですか?

  • ジャニスジョップリンはヘロインのODによりホテルで死亡
  • ブライアンジョーンズは薬物とアルコールによる心不全
  • ジミヘンドリックスは薬物とアルコールを使ったことで睡眠中に嘔吐、窒息死
  • エイミーワインハウスはウォッカ2瓶で急性アルコール中毒
  • ジムモリソンは薬物のODによりパリのアパート内にある浴槽で死亡

そして若き筆者が恋い焦がれてファッションまで真似していたニルヴァーナのカートコバーンは、ショットガンで頭を撃ち抜いて自殺する前、ヘロインを3発、思いっきり打っていました。

カートの遺書には強烈な筆圧で、ニールヤングの「HEY HEY, MY MY」の歌詞「It's better to burn out than to fade away(錆びつくより今燃え尽きる方がいい)」が書き殴られていたそうです。

あの偉大な発明家や作家も中毒だった!

他にも、作家、発明家、科学者や政治家など、薬物に苦しんだ著名人は数多くいます。

そしてなんと、あの有名な発明家であるエジソンはコカイン愛好家で、頻繁に摂取しながら発明に勤しんでいたそうですよ。

他にもチャイコフスキー、マイルスデイビス、サミュエルコールリッジ、エドガーアランポーなど、誰もが一度は聞いたことがあるような偉人たちがアルコールや薬物に溺れていたことがわかっています。

やはりアーティストや研究家などは常に糸をピンと張って生きがちなため、社会に馴染めなかったり、潜在的な闇、慢性的な孤独感を抱えていることが多いのでしょうか。

 

日本の薬物教育「ダメゼッタイ」

皆さんも一度は聞いたことがあるでしょう、「ダメゼッタイ」「人間やめますか」などのフレーズ。日本では主にこうして薬物防止を啓発しています。しかしながら我が国においても手を出す人は後を絶ちません。こんなに怖いものだと認知されているのにも関わらず、なぜ手を出してしまうのでしょうか。

そして日本の薬物依存に対する考え方としては「戻れない」「人生終わり」というものがメインです。少し考えてみてください、それは正しい知識なのでしょうか?

依存症は病気です

私は個人的に「人間やめますか」というフレーズが、もう戻れないような、まるで希望がないようなイメージがあって、あまり好きではありません。確かにこの法治国家において禁止されているドラッグを使う人間は処罰に値するでしょうし、禁止されていないドラッグに関しても乱用する人間は意志が弱くて快楽主義のダメダメ人間だと思われて当たり前だと思います。だってそういう教育だから。でも言わせて。

依存症は理由があって陥り、そして発症する、立派な病気です!

治療は非常に長く苦しい道のりだし、そう簡単ではありません。それでも努力を続ければ、根治は難しくても寛解はできるのです。

あのアーティストも克服

レディーガガはミックジャガーやアンディウォーホル、デヴィットボウイなどのアーティストに憧れて、アートやクリエイトの目的でコカインを使用しました。一時期は廃人になっていたそうです。今は「クリエイティブでアーティスティックな活動にクスリが必要だと言うヤツは、最低のクソッタレ」と発言。

エミネムは 8mileの撮影などで忙しくしていた頃にハマり身体的な部分でも精神的な部分でも強く必要としていたそうです。克服してからは「完全に音楽の世界へ戻ってきた感じがする」と言っていました。

彼らが死なずにいてくれて、今もこの世に作品を産み落としてくれることを非常に嬉しく思います。

そして冒頭に述べたスティーブンタイラーもまた、克服したアーティストのひとり。ここではタイラーを例に挙げて、どのように立ち直ったのか見てみます。

12ステップとアノニマスグループ

タイラーが今も取り組み続けている治療プログラムである「12ステッププログラム」の中身を紹介します。日本語で適切に当てはまる単語がなかったりして、神やらスピリチュアルやら胡散臭そうなワードになってしまっているのはご愛嬌。脳内で「友達」「家族」など、自分が大切にしているものとして補完しながら考えてください。

以下はアルコール・アノニマスによる原点の12ステップである[9]

  1. 私たちはアルコールに対して無力(powerless)であることを自覚した(admitted)-自分自身の生活がコントロール不能(unmanageable)である。
  2. 偉大なパワー(Power greater)が、私たちを正気に戻してくれると考えるようになった。
  3. 私たちの意思(will)と生活(lives)について、自分で理解している神の行い(care of God)にゆだねると決めた。
  4. 恐れずに自分自身のモラルを深掘りし、その一覧(inventory)を作った。
  5. 神に対し、自分自身に対し、他の人々に対し、自分自身の欠点の正確な気質(exact nature of our wrongs)を受け入れた(admit)。
  6. これらの気質的な欠点(defects of character)を、すべて神に取り除いてもらうことを受け入れた。
  7. 自分の欠点を取り除いてくださいと、謙虚に神に求めつづけた。
  8. 私が迷惑をかけた人々のリストを作り、彼ら全員に償いをすることをいとわなく(willing)なった。
  9. その人々に対し、彼らを傷つけない限り、機会があった際に可能な限り、直接的な償い(direct amends)を行なった。
  10. 自分自身の気質について、その一覧を継続的に把握し続け、過ち(wrong)があればすぐにそれを認めた(admit)。
  11. 祈りと瞑想を通して神との意識的接触を深め、私たちへの神の意志と、それを実現しようとする神の力を知ろうとし、これらだけを祈りにより求めた。
  12. これらのステップの結果、私たちはスピリチュアルに目覚め(spiritual awakening)、このメッセージをアルコホーリックに伝え、さらにこの原理を私たちのあらゆる場面で実践(practice)しようとした。

12ステップのプログラム - Wikipedia

これはアルコホーリクス・アノニマス(AA)という、アルコール依存症自助グループが発案した治療のプロセスです。治療プログラムとしては、上記のステップを踏んでいきながら、アノニマス自助グループにおいて「言いっぱなし、聞きっぱなし」などのルールのもとミーティングに参加していく。そして今も悩んでいる人にこのプロセスを伝え、救済の連鎖を繋げていく…といったところでしょうか。

そう、一度でもアディクションに陥ってしまったら最後、死ぬまでプログラムという名の努力は続くんです。

そんな血の滲むような努力をしてまで「使いたくない」「クリーンでいたい」と思うのは、使った苦しみを知っているから。何を隠そう、筆者である私もナルコティクスアノニマス(NA)という自助グループに通った過去があり、12ステップを実践し続けている人間のひとりです。だからよくわかります。

 

依存症啓発漫画のモデルになりました

そんな私、karmaが元依存症患者として取材協力させていただいた漫画「だらしない夫じゃなくて依存症でした」が、時事通信社さんのサイトにおいてウェブ連載中です。2019年2月9日現在、3話まで公開されています。

少し設定が変えてあったりはするのですが2話は殆ど私の実体験でして、主人公の幼馴染である元ヤク中アーティスト「マユ」のモデルになっています。

ぜひ一読してみてください、よろしくお願いいたします!!

www.jiji.com

作・画:三森みさ先生 わたしについて | MimoriMisa ART Graphics

監修:厚生労働省NPO全国薬物依存症者家族会連合会さん、時事通信社さん

 

最後に

シドビシャスの盟友であるジョンライドンの言葉を掲載して終わりにします。

ゆっくり自殺してるようなもんだ。

助けを求める叫びでもある。

奴らは苦しいのさ。

精神的に苦しんでるんだ。

 

 自己紹介させてください

私たち【 educart(エデュカート)】は、yajiとkarmaの2人による【児童福祉×芸術】をテーマにしたチームです。保育園などへの出張音楽講座、障害児向けのアートセラピー、ママやパパが楽しめるイベント開催など、芸術を通して子どもたちに生きる楽しさ・自己表現の素晴らしさを伝えていく活動を行なっています。 

educart.hateblo.jp

 

※この記事は、薬物使用の肯定を一切していません